意外と知らない"学校での1人1台のタブレット活用"(vol.4)

意外と知らない

前回は、学校での様々な学習場面におけるタブレット端末やICT機器の利用例を紹介しました。第4回は、実証実験や各種の調査で得られたデータを基に、教育現場でのICT利用の効果や活用状況について説明します。

ICTを活用した教育の効果とは?

学びのイノベーション事業 blank」では、ICTを活用した教育による効果や影響等について、アンケート調査や学力テスト等を行い、状況の把握を行いました。
実証に参加し、ICTを利用した教育を行った小学校(10校)では、ICTを利用した教育を行ったあと(平成24年度)の方が、標準学力検査(CRT)の結果において、低い評定の出現率が減少している傾向が見られました。(グラフ1参照)

グラフ1:標準学力検査(CRT)結果における変化
学びのイノベーション事業実証研究報告書P.220より転載

また、平成26年度全国学力・学習状況調査報告書(質問紙調査) blank によると、中学校でもコンピュータ等の情報通信技術を活用して、子ども同士が教えあい学び合う学習(協働学習)や課題発見・解決型の学習指導をより活発に行ったと答えた学校の方が、国語A・B、数学A・Bの平均正答率が高いという結果が出ています。(グラフ2参照)

【質問事項】調査対象学年の生徒に対して、前年度までにコンピュータ等の情報通信技術を活用して、子ども同士が教えあい学び合う学習(協働学習)や課題発見・解決型の学習指導を行いましたか

もちろん、これらのデータだけでICT利用と学力向上を関連付けるわけにはいきませんが、教育現場でのICTの活用が、児童生徒の学習に良い影響を与える可能性はあると言えるのではないでしょうか。

ICTの整備状況:増加するタブレットPCと電子黒板

当記事第1回でも触れましたが、現在の学校におけるICT機器の整備状況は、文部科学省が発表する「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果blank」で見ることができます。これによると平成25年度調査(平成26年3月時点)で学校に整備されている教育用コンピュータの台数は約190万台で、児童生徒6.5人に対して、教育用コンピュータ1台が配備されていることになります。これを諸外国と比較してみると、韓国は6.0人(平成20年4月、中学校)、アメリカは3.8人(平成17年秋)、イギリスは3.6人(平成21年6月、中等学校)です。(「教育の情報化ビジョン(骨子)」P.1参照)

なお、日本に整備された教育用コンピュータのうち、タブレットPCの台数は約7万2千台で、全体の3.8%にすぎませんが、前年度と比べると2倍以上のペースで増加しています。また、タブレットPCとセットで使われることが多い電子黒板の配備台数は、約8万2千台(1校当たり2.4台)で、こちらも前年度から1万台以上増加しています。

今後、日本でも1人1台を目標にタブレットPCの導入が、加速するものと予想されます。

日本の教育現場で、ICTの活用は進んでいるか?

それでは、学校に導入されたICT機器は、どれくらい活用されているのでしょうか。 社団法人日本教育工学振興会(現:一般社団法人日本教育情報化振興会)と日本マイクロソフトが2011年に共同で実施した「学校でのICT活用についての実態調査」によると、小学校では「よく活用させている」と「ある程度活用させている」の合計値は52%とかろうじて半数を超えていますが、中学校では28%、高校では21%という状況でした。(グラフ3参照)

グラフ3:児童・生徒の授業でのICT活用状況
学校でのICT活用についての実態調査と教育の情報化への提言P.14記載データより

また、文部科学省が、平成25年度(2013年10月~2014年1月)に全国の小中学校(各100校程度)を対象に行った「情報活用能力調査 blank」の教師用質問紙調査によると、「コンピュータなどを活用して、児童(生徒)同士が教え合い学び合う学習(協働学習)」に関して、「週1回以上」実施している教員は、小・中学校とも1割にもいたっていません(報告書P.112、P.114参照)。

さらに、経済協力開発機構(OECD)が34の国・地域の中学校校長・教員に対して実施した国際教員指導環境調査(TALIS2013)の調査結果報告書 blankによれば、日本では、「生徒は課題や学級での活動にICTを用いる」と答えた教員の割合が9.9%で、全参加国・地域の中で最低でした(参加国の平均値は37.5%。報告書P.161参照)。

諸外国と比べてもICT活用が進んでいないことがわかります。

一方で、同調査では「主体的な学び」に関する質問もありました。指導・学習に関する教員の個人的な信念についての問いでは、
・「生徒自身の探求を促すこと」は、教員の役割である。
・「生徒は、問題に対する解決策を自ら見出すことで、最も効果的に学習する」
・「生徒は、現実的な問題に対する解決策について、教員が解決策を教える前に、自分で考える機会が与えられるべき」
の項目について、日本の教員の9割以上が、「当てはまる」「非常によく当てはまる」と回答しています(報告書P.177)。

しかしながら、「主体的な学びを引き出すために必要と思われる項目」に関して、教員自身の姿勢や能力について聞かれると、自信を持つ教員の割合が総じて低く、諸外国に比べても大きな差が顕れています。(グラフ4参照)

一方で、「教科指導に必要と思われる項目」については、こちらも諸外国とのかい離はあるものの、前者に比べれば高めの数値になっていることから(グラフ5参照)、日本の中学校教員の多くが、「生徒の主体的な学習」をすべきであるという信念は持っているものの、その指導に対して苦手意識を持っている様が感じ取れます。

グラフ4:主体的な学びの引き出しに係る職能に自信を持つ教員の割合
グラフ4:主体的な学びの引き出しに係る職能に自信を持つ教員の割合

グラフ4:主体的な学びの引き出しに係る職能に自信を持つ教員の割合

日本の教育現場で、ICTの活用がなかなか進まない背景には、本来、ICTを活用することでより効果的に支援できると思われる「主体的な学び」のような取り組みを行うための環境やノウハウが不足していて、先生の側もなかなか実践に踏み切れていない現状があるように思えます。

教員のICT活用指導力は、伸びているか?

ICTの活用に大きく影響を与えるのが、教員のICT活用指導力です。
当記事第3回で紹介した総務省の「フューチャースクール推進事業 blank」では、実証校の教員を対象として、ICT活用指導力に関するアンケート調査の経年比較を行いました。

ICT活用指導力に対する教員の自己評価は、ICT機器導入前に行われた事前アンケート時(平成24年1月頃に実施)に比べて、ICT活用後に全ての能力が大幅に向上しています。特に「授業中にICTを活用して指導する能力」「生徒のICT活用を指導する能力」などは、平成23年度末アンケート(平成24年3月から4月頃に実施)まで、わずか2、3か月という短期間で、10ポイント以上も向上していることがわかります。(グラフ6参照)

このように、ICT活用に不安を感じている教員も、使い始めると数か月ですぐに慣れ、授業を重ねるごとにICT活用指導力が高まることが示唆されます。もちろん、教員研修や技術的な支援は必要ですが、積極的な実践を通じて能力を伸ばすという面もあるものと思われます。

中央教育審議会のなかに設置された教員養成分科会が、平成27年(2015年)7月に発表した「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(中間まとめ)blank」では、「新たな教育課題(アクティブ・ラーニングの充実、ICTを用いた指導法、道徳、英語、特別支援など)に対応した研修・養成が必要」としています。

今後、設備・環境の整備にともない、教員養成においてもICT活用指導力の育成が一層進められそうです。

≪第5回へ続く≫

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介

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