意外と知らない"学校での1人1台のタブレット活用"(vol.5)

意外と知らない

ここまで4回に渡って教育現場でのICT機器(特にタブレットPC)の活用について説明してきました。最終回では、原点に返ってICT活用の目的や意義について整理しながら、今後の教育の在り方とICT活用の関連などについて考えてみましょう。

なぜICT活用なのか?

理由の一つは、ICT機器が「授業の道具として便利で効果的だから」というものです。顕微鏡やOHPや大画面テレビがそうであるように、教育のツールとして有効なものは、教育現場に導入されます。コンピュータに代表されるICT機器やインターネット環境も、教育や学びのための便利な道具として大いに活用することができます。

加えて、教育の目的の一つが、子ども達がこれから社会で生きていくために必要な姿勢や知識・技能の基礎を身につけることにある以上、社会で当たり前のものとして生活や職場に入り込んでいるICT機器や環境を無視することはできないという現実があります。

平成26年度の内閣府の調査(PDFファイル) pdfによると、子ども達のインターネット利用状況は、小学生53.0%、中学生79.4%、高校生95.8%です。既に多くの子ども達が、スマートフォンやパソコンなどを日常的なインフラとして利用しており、社会に出れば、あらゆる場面でICTを利用せざるを得ない状況に遭遇することになるでしょう。

こういった背景の中、教育の場では、これからの子ども達が身につけるべき能力として、「情報活用能力」や「21世紀型能力」を定義し、これらの実現のために設備環境の整備を含め、新たな教育方法の実践・研究、教員養成の見直しなど、様々な取り組みがスタートしています。

道具としてのICT活用のメリット

第3回で紹介した通り、様々な授業シーンで、タブレット端末や電子黒板を使うことで、子ども達にとってよりわかりやすく、学びが深まる授業を実現しやすくなります。ICT機器を上手に利用することで、動画・音声等を使ったわかりやすい教材で学習したり、一人一人がインターネットを使って主体的な調べ学習を収集したり、自分の考えをまとめ、他の子ども達に提示し、意見交換をすることなどが容易に行えるようになるのです。

教員にとってのメリットもあります。デジタルコンテンツ化した教材や資料などは、管理がしやすく、加工や再利用も容易です。また、優れた教材を他の教員等と共有する環境も整えやすく、授業の質を向上させることにもつながるでしょう。

また、ICT機器の特性を活かせば、授業前、授業中、授業後の各場面で手間や時間の削減が図れ、効率化されることも、忘れてはならないメリットの一つです。

情報活用能力の育成のために

ICT機器を日常的に活用する年齢層が下がるにつれ、SNSや掲示板等を通じた子ども同士のネットトラブルが多発しており、中には犯罪被害に発展するケースもあります。また、インターネット上には多種多様な情報が存在していますが、中には信頼の置けないものや嘘も入り混じっており、まさしく玉石混交の状態と言えます。先の項でICT活用のメリットについて述べましたが、当然、実社会ではこうした負の面も存在します。

だからこそ、子ども達が社会に出る前に、インターネットを利用する際の情報モラルや、自分が必要とする情報を的確に収集し、その信頼度を判断して利用するための技能を身につけておくことが大事なのではないでしょうか。文部科学省では、このような情報や情報手段を主体的に選択し、活用していくための能力を「情報活用能力」として、図1のように三つの観点、八つの要素で定義しています。

学習指導要領では、児童生徒の発達段階に応じて情報活用能力の育成を行うことになっています。小中学校では「情報」のような独立した教科はありませんので、すべての教科の活動の中で、これらの能力を身につけることが求められています。こうしたことからも、普通教室におけるタブレット端末の積極的な活用が期待されています。

では実際、子ども達の情報活用能力は、どの程度のものでしょうか?

文部科学省では平成25年10月から平成26年1月にかけて、小中学生を対象にコンピュータを用いた情報活用能力調査を実施して、調査結果 blank の分析を行いました。

この調査結果を見ると、子ども達は、情報を読み取るための最低限の力は身につけているものの、情報の取捨選択やトラブル時の判断などには、まだまだ多くの課題を抱えているように見えます。

例えば、中学生に不正請求メールが届いた際の対応について問う設問では、五つの選択肢から、不適切と思われる対応をすべて選択できた生徒は、全体の21.1%にとどまりました。「この(不正請求)メールに返信する」という対応を、不適切とした生徒が全体の約半数しかいなかったことも驚きです。携帯電話やスマートフォン等でメールを利用している中学生は多く、実際に不正請求メールが届く可能性が十分にあり得るにも関わらず、このような危険性について認識を欠いている子どもの割合はかなり高いと考えられます。

子ども達が、自分の身を守り、他人を傷つけることなく、情報を正しく判断し活用するためには、学校でも家庭でも、しっかり情報リテラシーを身につけるよう指導することが必要です。

なお、文部科学省では、情報活用能力調査の結果を踏まえ、子どもの情報活用能力を育成するための指導方法をパンフレット(PDFファイル) pdfにまとめていますので、これらの資料を参考にしてはいかがでしょうか。

21世紀型スキルの育成のために

当サイトの記事「意外と知らない“21世紀型スキル”blank 」でも取り上げられたように、情報通信技術が発達し、変化の激しい現代社会を生き抜くためには、批判的思考力や問題解決能力、コミュニケーション能力のような21世紀型スキルが求められています。また、国立教育政策研究所では、この流れを受け、日本の学校教育が培ってきた資質・能力を踏まえた「21世紀型能力」を提唱しています。(図3参照)

2014年11月には、文部科学大臣が、中央教育審議会に対して「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について blank」と題して、新しい学習指導要領を検討するための極めて重要な諮問を行いました。その中で、育成すべき能力・資質について、21世紀型能力を踏まえて検討すること、またそれらを育むために、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法等の充実の必要性について言及しています。

タブレット端末はアクティブ・ラーニングを支える必要不可欠な道具として考えられており、例えば、インターネット等を利用した調べ学習や、カメラ等を使ったフィールドワーク、発表資料の作成など、様々な用途での活用が考えられています。このように、近い将来に求められる新しい学びのスタイルをサポートするためのツールとして、ICTは欠かせません。

次期学習指導要領の全面実施は2020年と言われていますが、その頃には、タブレット端末等をより活用した授業スタイルが、より一般的になることは間違いなさそうです。

≪おわり≫

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介

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