意外と知らない”幼児教育”(vol.2)

意外と知らない

前回の記事では、幼児教育を国はどのように定義しているか、また幼児期に身につけるべき能力とは一体どのようなものかについてお伝えしました。今回は、より具体的に幼児教育の方法を考えるために、世界2大教育法(モンテッソーリ教育とシュタイナー教育)と呼ばれる教育メソッドについてご紹介します。今、この時代に求められる幼児教育は一体どういったものなのか、皆さんと一緒に考えていきます。

近年、教育界全体では、従来の日本の教育スタイルであるような、教員が主体となって教える一方向の授業ではなく、子ども同士で協力し合ったり、教員とやり取りをしたりする、子どもが主体的に授業に参加するような教育方法が、今後のグローバル社会において必要となる能力の育成に重要だと提言されています。そうした能力の育成のための土台作りの期間として幼児教育への注目は高まっており、日本でも幼児教育メソッドとして「モンテッソーリ教育」「シュタイナー教育」「フレーベル教育」「フレネ教育」など、世界の様々な教育法の名称を耳にすることが多くなってきました。

本稿では、そのような幼児教育メソッドの中でも世界2大教育法とも呼ばれるモンテッソーリ教育とシュタイナー教育を取り上げ、一体どのような魅力、特徴があるのか解説します。

モンテッソーリ教育とは

モンテッソーリ教育とは、20世紀初頭にマリア・モンテッソーリによって考案された教育法です。イタリアで最初の女性医師であったモンテッソーリは、子どもを観察することを大切にし、その子どもの今の課題を見極めて最適な処方をする方法をとった所、大きな成果がありました。障害を持った子供を先入観を持たずに観察することで、すべての子どもには自己教育力が存在し、子ども自身で子どもの発達がなされることに気づき、これを健常児に応用することを考えました。モンテッソーリは1907年に、ローマの貧しい街であったサン・ロレンツォ地区に世界で初めてのモンテッソーリ教育の専門施設である「子どもの家」を設立し、子どもが自主的に活動できる環境を整えることから始め、さらなる実践を通して、モンテッソーリ教育を確立しました。

モンテッソーリ園に通ったイギリスのウィリアム王子とキャサリン妃、そして二人の長男ジョージ王子も通っている幼稚園でも行われているということで、近年とても話題になっています。

モンテッソーリ教育の特徴

モンテッソーリは、幼児期には子どもがある特定の事柄に対して強い感受性が現れ、些細なことに敏感になって自立が完成していく時期があると言いました。このことを「敏感期」という名で示しています。そしてモンテッソーリ教育では、子ども一人一人が自分の好きな道を選び、「やってみたい」と自発的に思えるような教育環境を目指し、自立という最終目標に向けて、子どもの発達段階に合わせた指導をとても重視していることが特徴です。このようにモンテッソーリ教育は、子どもの自由を保障し、子どもが持っている自己教育力の具体的な現れである「敏感期」を育むための環境を整備しています。

個人によって敏感期の期間は異なりますが、多くのモンテッソーリ教育の研究者が挙げている敏感期は以下の8つです。

敏感期 年齢 内容
①言語の敏感期    
  話し言葉に対する敏感期 7か月の胎児期~3歳前後 話し言葉が最も身に着く時期
  文字に対する敏感期 3歳半~5歳半 書くこと、読むことに興味や関心を持つ時期
②秩序の敏感期 6ヶ月~6歳前後 物事の順番や、物が置いてある場所に対してこだわりを持つ時期
③小さいものへの敏感期 2歳~3歳 大人が気づかなかったり、見過ごしてしまったりするような小さなもの(食べこぼし、染み、虫など)に対して興味を持つ時期
④感覚の敏感期   五感を刺激するものに対して強い興味を持つ時期
  感覚の探求、溜め込み 0歳~3歳 五感に触れたものが何であるかは意識しないが、その感覚的印象を覚える時期
  感覚印象の整理、分類、秩序化 3歳~6歳 今まで溜め込んだ感覚的印象を整理したり、分類したりする時期
⑤運動の敏感期    
  運動機能の発達 0歳~3歳 歩く、座る、持つ、運ぶといった大きな動きを獲得する時期
  洗練された運動 3歳~6歳 今までに獲得した動きを、より洗練したものへと調整していく時期
⑥数の敏感期 4歳~5歳 日付、年齢などの数にこだわる時期
⑦文化の敏感期 6歳~9歳 言語や数以外に対して興味・関心を持つ時期
⑧礼儀と作法の敏感期 3歳~6歳 人間関係を構築し、社会生活を円満に過ごすための礼儀やマナー、作法を吸収する時期

この「敏感期」は、子どもが環境と関わり合いながら生きていくための力を培う大切な時期です。様々な活動を通して、個々が自由に体を動かしながら学ぶ力を形成し、その後の成長のための土台作りを行います。

そして、モンテッソーリ教育では、上に述べた敏感期を背景として、子どもは5つの分野の活動を「お仕事」として行っています。子どもに合った大きさや美しさ、そして清潔さなどに配慮した教具を用いて行うこの活動は、子どもに強制して行わせるものではありません。

 

子どもは、敏感期に合わせて自分の興味があることを納得がいくまで取り組み、自発的な行動を積み重ねていくことで成長していきます。

モンテッソーリの5つの分野は、以下の通りです。

5分野 背景となる敏感期 活動(お仕事)の内容
①日常生活における練習 運動の敏感期 日常生活で使用する物を「用具」として扱い、動きを身につける。洗濯板を用いた洗濯、靴の手入れ、掃除、アイロンかけ、食卓の準備など様々なことを行う。
②感覚教育 感覚の敏感期 モンテッソーリ教育の中でも特に重要視されており、約20種類の「感覚教具」を用いて感覚別に活動を行う。各感覚器官に対し、別個に刺激を与える教具と触れ合い、感覚印象を整理する。(例:音感ベル、幾何学立体、重量板、嗅覚筒)
③言語教育 言語の敏感期 「話す」「読む」「書く」だけではなく、「文法」も学ぶ。語彙を豊かにする「話し言葉」の活動では、絵カードを用いたり実物と絵を組み合わせる練習をしたりする。書き方や読み方を覚える「書き言葉」の活動では、文字並べ、なぞり文字、清音・濁音・半濁音や音節について学ぶ。単語を読むことから始めて絵本を読むことができるようになると、文法や文章の構成を学ぶ活動を行う。
④算数教育 数の敏感期 「量物」「数詞」「数字」三者が一致することで数量概念を身につけさせる。数字カードや玉、棒などを用いて数量の概念を学んだり、両替遊びや数字の配列を通して加減乗除の概念を学んだりする。そして、問題カードや埋め込み暗算板を用いることでさらなる強化練習につなげる。
⑤文化教育 文化の敏感期 地理、地学、生物、歴史、道徳、音楽、美術、体育などが含まれる。色付き地球儀や地図パズル、動物や植物の絵カード、カレンダー作りなどを通して多岐にわたった能力を育む。

それぞれの分野に対応した多くの教具を用いて、子どもは自主的に学んでいきますが、5分野は独立しているわけではなく、すべての「お仕事」につながりがあります。

モンテッソーリ教育では、大人が見守る中で、子どもの好きなお仕事を繰り返して、没頭し、納得がいくまでやりきることができる環境を重視しています。このような活動を通して子どもの知的好奇心は引き出され、思考力や判断力を身につけた自立した姿へ成長していくのです。

モンテッソーリ教育を受けた著名人

世界では、多くのモンテッソーリ教育を受けた著名人が活躍しています。Amazon.comの創始者であるジェフ・ベゾス、googleの共同創立者のサーゲイ・ブリン、Wikipedia創設者のジミー・ウェールズ、Facebookの 創業者マーク・ザッカーバーグといった世界的に有名な企業経営者がいます。

また、過去には現代経営学の父であるピーター・ドラッガーや「アンネの日記」の著者であるアンネ・フランク、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの夫人であるジャクリーン・ケネディという偉人達もモンテッソーリ教育を受けていました。自発的な子どもの感覚を引き延ばし、自由な創造性を持たせる教育が世界に名を残す人物への成長を促したのでしょうか。

シュタイナー教育とは

シュタイナー教育とは、オーストリア出身の哲学者ルドルフ・シュタイナーが1919年に始めた、教育思想・教育実践です。シュタイナーが、ドイツのヴァルドルフ・タバコ工場の労働者のために設立した、ヴァルドルフ学校がモデルになっていることから、別名「ヴァルドルフ教育学」とも呼ばれています。

シュタイナーは新しい霊的な世界像・人間像への道を開こうとする「人智学(アントポゾフィー)」という思想の創始者であり、その考え方を教育の分野に応用しました。

子ども一人一人が持つ個性を受け止め、社会の中で自分らしく生き、知性、感情、意思の調和した人間に育てていくことが、シュタイナー教育の大きな目的です。中でも、「芸術」の実践を多く行っているシュタイナー学校は世界中に1000校以上あり、その取り組みは全世界で評価されています。

シュタイナー教育の特徴

シュタイナー教育は、発達段階に応じた教育法を実践し、子どもが自分らしさを発達させることができる環境を与えることを重視しています。

シュタイナー教育にはモンテッソーリ教育との類似点があります。それは、子どもを伸び伸びと育て、子どもの好奇心や想像力を大切にしている点です。一方シュタイナー教育の特徴は、濡らした紙の上に、筆で自由に絵の具を引く「にじみ絵」制作のような芸術的な感性を養う機会や、積み木や木製のままごと道具、木の実といった手作りの教具などの自然素材に触れる機会が多いことが挙げられます。また、シュタイナー幼稚園は、子どもが自分らしさを発達できることができる、まるで家庭の延長のような位置づけを目指しており、毎日の生活の中に発見があって、その生活のリズムが子どもの成長に大きく影響すると考えています。

シュタイナー教育では、子どもが大人に成長する過程で節目が7年ごとにあると考え、3段階に分けています。以下の表のように人間の成長を7年周期でとらえ、子どもの発達段階を尊重しています。

そして、思考力や判断力を育てて自己を確立する基礎となるのは、感情を豊かに育む時期が7歳から14歳であるとしています。

また、シュタイナー教育では、人間は4つの構成体で形成されると考えています。

構成体
形成される時期
 
内容
物質体
0歳
身体そのもの
生命体
7歳頃
引力に逆らって下から上に伸びる力。成長や繁殖をつかさどる力、起き上がる力
感情体
14歳頃
快・不快の感情も結びついた動き
自我
21歳頃
考え、話し、「私」という意識を持つこと

シュタイナー教育の特徴(学校編)

近年シュタイナー教育が注目され、人々の関心が高まってきているのは、この学校で行われている教育法に特徴があるからではないでしょうか。幼児教育からは少し外れますが、その特徴を紹介します。シュタイナー教育を行っている学校では、以下の表のような特徴があります。このような学校は日本にもありますが、学校教育法で定められた「学校」ではないので、公式の卒業証書は発行されません。

 
特徴
教科書がない 教科書を用いると決められた内容を勉強することになるため、教員は各クラスに適応した教材を作成する。そして、子どもが工夫を凝らして努力している教員の姿を見ることで、好奇心や学ぶ目的を持ち続けることができる。子どもには教科書の代わりに「エポックノート」が与えられ、世界に一つしかない自分オリジナルの教科書を作成する。
エポック授業 1教科は3~4週間の「エポック」と呼ばれるブロックの期間で学び、しばらく間をおいてから再び学ぶというリズムがある。そして、毎朝約2時間連続して同じ教科を数週間にわたって学ぶ主要授業のことをエポック授業と言う。一定の期間に、一つの教科を落ち着いて学ぶことで、考えや学びを深めることができる。
8年間の担任持ち上がり制 発達過程に応じた、12年の一貫した教育方法の中の、1年生から8年生まではクラス替えがなく、同じ担任が指導する制度がある。これは、同じ教員が「エポック授業」を担当できるということと、8年間子どもに寄り添って指導ができるため、子どもの成長の過程や家庭環境もしっかりと把握することができるという良さがある。
テストがない(点数による評価はない) シュタイナー教育では、子ども一人一人の成長を大切にしている。知識だけでなく、一人の人間として自分らしく生きていくことを尊重しているため、到達度は全員同じでなくても良いと考えている。そして、教員は通知表に点数をつけずに、文章で評価をする。子どもを観察して文章で個々に伝えることで、子どもやその家族との信頼関係を築くことができると考えている。
オイリュトミー シュタイナーが考案した、体を使って音楽や言語などの様々なことを表現する独自の身体表現をオイリュトミーと言う。シュタイナー学校では、オイリュトミーの授業が12年間の必修科目とされている。

このように、シュタイナー教育では、子どもが自分らしさを発達できる家庭のような環境を作り上げ、子どもが生き生きと成長できる教育を行っています。

また、カリキュラムの中に多く含まれている自然との関わりによって、ホリスティック医学分野や、生命活動の分野で活躍している卒業生が多くいます。

まとめ

今回は、モンテッソーリ教育とシュタイナー教育という世界2大教育法と呼ばれる教育メソッドについてご紹介しました。どちらの教育法も、約100年前に提起されたものであり、世界的に認められているものです。果たして、これらのメソッドはこれからの時代に本当に有効なのでしょうか。皆さんはどのように感じたでしょうか。

もちろん、この二つの教育法は子どもの自主性や好奇心・集中力などを育てる事ができる素晴らしい教育法だと思います。しかし、学費の面ではどうでしょうか。また、教育方法やクラス編成が他の学校と異なる部分もあるため、子どもの進学後にギャップが生まれる可能性もあります。もしかすると本当に必要な視点は、このような教育メソッドを実施する保育施設に通わせることだけでなく、様々な教育メソッドを学び、それぞれの良さを融合させ、家庭や教室でオリジナルな教育を行うという視点かもしれませんね。

今後の展望と課題

これまで2回にわたってご紹介した通り、幼児教育は子どもの生きる力を育むことに対して大切な時期です。主体的、対話的な深い学びが求められている今、人間形成の土台となる幼児期にどんな活動をし、何を学んでいくのかがさらに重要になっていくことでしょう。

幼児教育には様々な可能性があります。例えば、世界では幼児期からのプログラミング教育や外国語教育の取り組みが様々な形で始まっています。これらに限らず幼児教育の分野がさらに発展していくために、より多くの取り組みが行われていくことを期待しています。

参考資料
  • 『モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び』松浦公紀 著、学習研究社
  • 『モンテッソーリ教育 : 理論と実践 第4巻・算数教育』石井昭子、 岩田陽子 著、学習研究社
  • 日本モンテッソーリ教育綜合研究所 blank
  • 札幌モンテッソーリこどもの家 blank
  • 学校法人シュタイナー学園 blank
  • 日本シュタイナー学校協会 blank
  • 『人間理解からの教育』ルドルフ・シュタイナー 著、西川隆範 訳、筑摩書房
  • 『新訂版・シュタイナー教育』クリストファー・クラウダー、マーティン・ローソン 著、遠藤孝夫 訳、イザラ書房
  • 『シュタイナー教育を考える』子安美知子 著、朝日新聞社
  • 『我が家のシュタイナー教育-幼児期編』広瀬牧子 著、共同通信社
  • 『今日からできる7歳までのシュタイナー教育』加納美智子 著、学陽書房

 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理 

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