意外と知らない"学校建築・学校家具のトレンドの変遷"(vol.2)

 

第1回では、学校建築の変遷を振り返りましたが、家具はどうなのでしょうか。学校家具と聞くと、一人ひとりが使用する児童生徒用の机・椅子を想像される方が多いと思いますが、その他にも理科室などの特別教室に置かれる実験台や調理台も入りますし、教材等をしまう収納も入ります。今回はそんな学校家具の中でも、主に建築に固定しない家具を中心に見てみようと思います。

 

生徒用机・椅子の変遷

明治時代の教室(『未来の学校建築』より明治中期の教室平面モデルプランを参考に作成) ※一間≒1.81818m 一尺≒303.03mm 一寸≒30.303mm

明治時代の教室(『未来の学校建築』より明治中期の教室平面モデルプランを参考に作成) ※一間≒1.81818m 一尺≒303.03mm 一寸≒30.303mm

学校成立以前の寺子屋では、座卓のような形で畳などの上に机を置いて正座したまま学習するスタイルが一般的でした。学校建築の拡充とともに床が板(フローリング)張りに変化してきたこともあり、2人で1台の長机を共有する形で、椅子に座るスタイルが導入されました。教科書が非常に高価であったこの時代は2~3人で教科書を共有することも多く、このスタイルが広まったようです。1890(明治23)年の『小学校設備準則』では「生徒四人ニ付一坪ヨリ小ナルベカラズ」と記されており、一教室八〇人÷(四人/坪)=二〇坪=四間×五間(約7.3m×約9.1m)となり、人数は現在の倍程度詰め込まれていますが、これが後の普通教室の大きさとほぼ同じ広さになってきます。この教室の大きさが小学校の定型となり定着していったことは第1回でお話ししました。過去の学校家具についての文献は少なく、文部科学省の学制百年史や学校基本調査にも家具に関するものはほとんど記述がないのですが、この頃の机・椅子は当時の写真などを見る限り木製で、大きさや高さも様々な種類があったようです。

1893(明治26)年から文部省学校衛生主事・三島通良による身体検査の統計により、机や腰かけの構造、サイズについて検討が行われるようになり、翌年には学齢別の規格サイズが決められました。1897(明治30)年には身長100cmから5cm刻みで150cmまで10段階の机と腰かけの寸法表を作成し、それが我が国での基本となりました。この頃の二人用机のサイズは幅約109cm、36cmと現在より一回りも二回りも小ぶりです。

 

戦後、学校の机や椅子は資材不足などで粗悪品が出回っていたようです。これを防ぐため、1952(昭和27)年、学校用家具(普通教室用机・椅子)のJIS規格(旧JIS)が規定され、号数ごとのサイズが明示されました。地域の木工所ではこの規格を元に学校用の家具が作られるようになりました。机の幅は600mm、奥行き400mmとなり、一人用の机が定着したようです。

 

JIS 机の高さ 座面の高さ 旧JIS
号数 標準身長 適合身長の範囲 号数
6号 180cm 76cm 46cm 173cm以上 特号
5.5号 173cm 73cm 44cm 166~179cm 1号
5号 165cm 70cm 42cm 159~172cm 2号
    67cm 40cm 152~165cm 3号
4号 150cm 64cm 38cm 145~158cm 4号
    61cm 36cm 138~151cm 5号
3号 135cm 58cm 34cm 131~144cm 6号
    55cm 32cm 124~137cm 7号
2号 120cm 52cm 30cm 117~130cm 8号
    49cm 28cm 110~123cm 9号
1号 105cm 46cm 26cm 103~116cm 10号
新・旧JIS規格(学校備品.comを参考に作成)

その後、ベビーブーム以来の就学児童の増加で学校の建設ラッシュとともに学校用の机・椅子の需要が急増しました。1958(昭和33)年頃にはピークとなり、1教室を2学級が午前・午後交替で使う2部授業も行われていたようです。戦前からの老朽化した木造校舎の建て替えとともに、地方の家具木工所では対応が難しくなったこともあり、1962(昭和37)年頃から生徒用の机・椅子もスチール製の需要が高まり、急速に普及したようです。木製の机・椅子はメンテナンスが必要とされ、用務員さんがこのメンテナンスを行っていたのが、人数が減ってしまい、手のかからない丈夫な机・椅子が求められた、との理由もあるようです。この後、スチール製の机・椅子が普及し、ほとんどの小中学校で使用されるようになりました。1975(昭和)年頃から、高さ調節のできるタイプのものが発売され、今日でも流通しています。

 

1999(平成11)年には新JISと呼ばれる(JISS1021)規格に更新されました。これが現在まで適用されています。新JISでは机の奥行きを450mmか500mmと定めており、これまでの幅600mm、奥行き400mmの机は見直されることになりました。実際の教育現場ではしばらくの間、幅600mmの机が使われていたようですが、1990年代には教科書やノート等も国際規格であるA判に移り変わっていったこともあり、次第に現在のJIS規格が浸透してきました。文部科学省の調査によると、115の調査事例のうち8割以上が新JIS規格に対応していた、という記述があります。

奈良県吉野町立吉野中学校 2014年つくえ組み立てワークショップの様子

奈良県吉野町立吉野中学校 2014年つくえ組み立てワークショップの様子

最近では生徒用の机・椅子を木製に戻す学校も増えています。頑丈で壊れにくくなった机や椅子ですが、画一的でモノを大切にしようとする心が失われているのではないかという危惧や、地域の材料で、地域ごとに作られていた子ども達のための家具を見直そうという動きがあるからです。ただ一方で、全て木製にしてしまうと堅牢性が落ちる、重いなどの理由があり地域だけでの対応が難しいといった声もありました。奈良県吉野町立吉野中学校では、脚部はスチール製の丈夫なものを株式会社内田洋行が提供し、机の天板部分は地域で製作してもらい、最後は生徒達が組み立てる仕組みになっています(詳細は別記事「2015年度グッドデザイン・ベスト100受賞! 教育用家具『地域産材で作る自分で組み立てるつくえ』」にあります)。モノを大切にする心を育てる学校家具。こうした地域それぞれの取り組みが今後は増えていくのではないかと思います。

特別教室の変遷

第1回で、大正から昭和にかけて特別教室が設けられるようになったと書きましたが、弊社では1976(昭和51)年に特別教室などの設備備品を取り揃えた『学校設備品カタログ』を発刊し、理科室の実験台や調理室の調理台、戸棚、椅子などを掲載しています。

生徒用実験台、整理棚 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.2』より抜粋

生徒用実験台、整理棚 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.2』より抜粋

角椅子 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.2』より抜粋

角椅子 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.2』より抜粋

この頃には広く特別教室も広まっていたようです。ナラ、タモ材を使用した正に原型と言える特別教室の家具がこの頃には完成しています。生徒用は角椅子のみですが、サイズも幅300mm、奥行き300mm、高さは400mm、420mm、450mmとなっており、約40年間デザインもほぼ変わらないまま販売しているロングセラー商品になっています。

理科実験台KAシリーズ 株式会社内田洋行 『施設・設備機器カタログ vo.25』より抜粋

理科実験台KAシリーズ 株式会社内田洋行 『施設・設備機器カタログ vo.25』より抜粋

現在では弊社でもテーブル部分が可動の実験台や調理台を販売し、特別教室でも多様な学習が出来るように配慮した製品や、室内の空気を綺麗にする効果を持った材料で作った収納などを販売していますが、多くの学校では、特別教室の構成としては基本的にあまり変化していない状況です。

オープンスペース(多目的教室)の変遷

1970年代後半から80年代にかけ、オープンスクールが生まれた経緯は前稿の通りです。日本でも「多目的スペース補助」制度を利用し、全国で数多くのオープンスペース・多目的スペースが生まれました。弊社の『学校設備品カタログ』は『施設・設備機器カタログ』と名称を変え、「多目的スペース」というカテゴリーが追加されています。テーブル、チェア、可動の収納など様々な製品が開発され、掲載されています。

OPデスク 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.11』より抜粋

OPデスク 株式会社内田洋行 『学校設備品カタログ vo.11』より抜粋

オープンスペースの目的は、これまでの固定的な学習だけでなく、学習方法や活動に合わせて可動の家具を動かし、スペースを作ることによって、多様な学習スタイルに対応する新しい学びの場を構築するというものでした。当初は学校ごとの工夫も様々で、目覚しい発展を遂げたオープンスペースでしたが、次第に多目的教室と呼ばれる教室が作られたり、教室の横の壁を取り払い、自由な活動スペースを設けるスタイルが一般化してきました。

なお、こうしたオープンスペースの変化は小学校を中心に取り入れられましたが、教科担任制の中学校・高校ではあまり取り入れられず、主体的で活動的な授業を中学校・高校でどのように発展させていくのか、現在でも課題となっています。そんな中、川崎市立川崎高等学校、附属中学校ではICTを活用し、アクティブ・ラーニングを取り入れた教科センター方式に挑戦している公立学校です。生徒は1人1台所有するタブレットPCを授業中だけでなく休み時間、家庭学習にも利用することができ、全国から注目されています。

主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」)へ

株式会社内田洋行 『施設・設備機器カタログ vo.25』より抜粋

株式会社内田洋行 『施設・設備機器カタログ vo.25』より抜粋

平成28(2016)年、文部科学省が「次期学習指導要領等へ向けたこれまでの審議のまとめ」を取りまとめ、平成29(2017)年に幼小中の学習指導要領等の改訂告示を公示しました。そこでは『生きて働く知識・技能の習得など、新しい時代に求められる資質・能力を育成するために主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」)の視点からの学習過程の改善』を求めています。今後この方針に沿って、全国の幼稚園(平成30・2018年度から)、小学校(平成32・2020年度から)、中学校(平成33・2021年度から)、高等学校(平成34・2022年度から)では、学習が行いやすい環境を整えるところが増えてくると思われます。株式会社内田洋行では教材やICT環境をだけでなく、容易にレイアウト変更が出来る家具(アクティブコミュニケーションファニチュアー)を充実させ、学校全体での深い学びの支援を目指しています。毎年開催されるNewEducationExpo(http://edu-expo.org blank)では、これらの家具を展示していますので、実物をご覧いただけます。

NewEducationExpoでの展示の様子

NewEducationExpoでの展示の様子

学校家具のこれから

このように学校家具について振り返ってみると、学校建築が100年間基本的な変化をしていないことに対応して、学校家具も基本的には大きな変化はなく続いてきているという印象です。制度などを振り返ってみても、管理側の視点で子ども達の家具が作られていたと言わざるを得ません。地域でのこれからの学校のあり方を考えると、より多様な建築、家具があって良いはずです。これからは、学びたいという気持ちや地域の人を感じられる、子ども達が使いたくなるような家具を提供していきたいと思っています。

参考文献・引用

 

構成・文:内田洋行 学びのコンテンツ&プロダクト企画部 今井茜

 

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