日本型教育の海外展開(第2回)

日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)

 

第1回は、「日本型教育」とはなにか、その強みと弱みについて振り返りました。
第2回は、「日本型教育」を海外に展開しようとする取り組み「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の全体像と、教育における海外協力、海外展開についてみていきたいと思います。

日本は海外へどのような支援や協力を行っているのでしょうか。また、なぜ日本は海外への支援を行うのでしょうか。

◆国際的な目標「質の高い教育をみんなに」

  • 全世界で6億1,700万人の若者が、基本的な算術と読み書きの能力を欠いています。
  • 開発途上国の初等教育就学率は91%に達しましたが、まだ5,700万人の子どもが学校に通えていません。

(2018年12月現在)

これは、2015年に設定された「持続可能な開発目標(SDGs)」の17のゴールのうちのひとつ、「目標4:質の高い教育をみんなに すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」に対するデータの一部です。

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までの国際目標です。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。
MDGsは、極度の貧困と飢餓への対策、致命的な病気予防、すべての子どもへの初等教育普及をはじめとする開発優先課題に関して、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げたものです。達成期限となる2015年までに、例えば1990年に比べ10億人以上が極度の貧困を脱し、5歳未満の子どもの死亡率が半分以下に減少するなど、いくつもの重要な成果をあげました。一方で、未達成の目標も残っており、サハラ以南のアフリカなど一部地域での目標達成の遅れといった課題も残されました。これら未達成の課題や、新たに生じた課題、開発に関わる主体が民間企業やNGOなど多様化してきたことなどを踏まえ、次の15年間の目標としてSDGsが設定されました。MDGsが開発途上国のための目標であったのに対し、SDGsは格差の問題、持続可能な消費や生産、気候変動対策など、先進国を含む全ての国に適用される普遍的(ユニバーサル)な目標とされています。

教育に関しては、MDGsにおいて8つの目標のひとつとして「目標2:初等教育の完全普及の達成 すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする」が設定されていました。これに対し、就学率や若年層の識字率は向上しましたが、まだ全ての児童が初等教育を修了するには至っていません。SDGsの目標4では、2030年までにすべての男女が無償で初等・中等教育を修了すること、また職業訓練の平等な機会を提供し、ジェンダーと貧富による格差を解消することで、全世界で質の高い高等教育機会を提供すること等を目指すとされています。
日本でも2030アジェンダ実施のために積極的に取り組みが進められており、SDGs実施指針には「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことがビジョンとして掲げられています。

◆日本が行う海外教育協力

青年海外協力隊/シニア海外ボランティア募集の広告を見たことがありませんか?2018年9月時点で、1,861人が71か国に派遣されており、約半分が教育やスポーツなど、人を育てる活動をしています。理科や数学、体育の先生も多数派遣されているようです。
青年海外協力隊 職種別派遣実績
国際協力には、開発途上国への経済協力のほか国連平和維持活動(PKO)や経済連携協定(EPA)など、さまざまな形があります。このうち政府が開発途上国に行う資金や技術の協力を政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)といい、経済協力の中核をなしています。青年海外協力隊/シニア海外ボランティアも、日本政府のODA予算による二国間援助の一つです。

日本のODAは、戦後賠償の一環として1954年に始まり、経済発展とともに援助の量、幅を拡大してきました。これまでアジアをはじめとする190の国・地域の発展に寄与し、2000年までの10年間の日本の援助額は世界第1位、また援助を受ける国にとって日本が最大の援助国になっている国もあります。

日本も終戦の混乱と貧しさから復興し、経済発展を遂げるまでには、世界の国々から物資や資金の援助を受けてきました。海外への支援を行うことは相手国のためだけでなく、日本のためにも重要なこととされています。資源や食糧の多くを海外に依存し、貿易や投資の恩恵を強く受けている日本にとって、また地球規模で人やモノ、資本が移動するグローバル経済のもとでは、平和で安定した国際環境は日本の安全と発展のために必要不可欠です。例えば環境問題や感染症の問題は、その国だけでなく全世界へ影響が及びます。また被援助国のインフラ整備や経済発展は、日本企業の進出基盤を整えることや新たなビジネスの可能性にもつながります。さらには、相手国との友好関係を築き、国際社会における地位や発言力を向上させる意味もあるのです。

日本の国際教育協力は、主にODAとして実施されてきましたが、ODAはその始まりから60年以上がたち、そのあり方も転換を迫られています。2012年にまとめられた「国際協力推進会議中間報告書」によると、「ODAの枠組みを超えた新たな協力の枠組みが必要であり、産学官をはじめとしたオールジャパンの連携による国際協力の実施が求められる」とあります。ODAは対象国が経済発展を遂げればその対象から卒業していきますが、急速な経済成長を遂げた新興国の中には、教育・人材育成の面で課題を抱えている場合も多く、教育協力への大きなニーズが存在するようです。そして特にそのような経済成長を遂げた国に対して引き続き教育協力を行うことは、将来の事業パートナーや日本にとって有利な市場に育つといった、日本にとってのメリットも大きいようです。また近年では民間企業やNGO、地方自治体、大学などにも国際協力の裾野が広がり、官民が連携した形で様々な事業に取り組んでいるようです。

そこで、これまで産学官や関係諸機関それぞれが個別に行ってきた国際教育協力を組み合わせたり、情報を共有したりすることで、限られた予算の中でも、重点を置く国や分野を判断したり、逆に重複しないようにしたりと、戦略を練るためのプラットフォームの設置、またそのプラットフォームの下で資金分担も含めて相手国と交渉する組織の検討がはじめられました。

◆「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」

第1回でも少しご紹介しましたが、2016年に文部科学省を中心に関係省庁/機関、民間と協働する「官民協働プラットフォーム」が立ち上げられ、「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の取り組みが開始されました。
「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」は、ステアリングコミッティによる基本方針に基づき、具体的なモデル案件を確立、育成し、海外のニーズや国内のシーズ(どのように日本側が日本型教育を展開しうるか)の掘り下げ、マッチングやそれらの情報共有を進めるため、以下のような取り組みが進められてきました。2020年度までを一つの区切りとして、成果の検証、事業終了後の体制の検討を行うとされています。

5年間のロードマップ

(2018 年度の EDU-Port の進め方について(案)より作成)

具体的には、海外展開のモデル候補となりうる事業を、プラットフォームを通じ支援し、成果・課題の検証、共有を行う「パイロット事業」、現地での日本型教育の発信や海外ニーズと国内シーズとのマッチングのための国際フォーラム等の海外向けイベントへの出展、企業間連携の模索や事業検討、事例紹介、情報共有やネットワーキングのための国内向けイベントの開催等が行われています。

「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の目標は以下のように示されています。

成果目標1:日本の教育の国際化

第1回では「日本型教育」とは何かを考えるために、国際的にどのような評価をされているのか振り返りました。「日本型教育」としてパッケージングしようとして気がつくことや、国際的に通用するものとしてカリキュラムや教職員の質が見直され、さらに高まること、また国境を越えた教員や教育関係者同士のコミュニティの形成、児童・生徒・学生同士の異文化理解や協調性、コミュニケーション能力の向上など、日本の教育や日本で育つ子どもたちにとってのメリットもあると考えられています。

成果目標2:親日層の拡大

新興国を中心に高まっているニーズへの対応や、国際協力の意味合いです。先ほどもご紹介したように、一定所得水準まで経済成長を遂げたものの、教育、人材育成の面で課題を持つ国々を引き続き支援していくために、ODAの枠組みを越えた新たな国際協力の枠組みがつくられようとしています。SDGsをはじめとする国境を越えた地球規模の課題に対し、教育を通じて貢献すること、その先に、諸外国との強固な信頼関係を築くことや親日層の拡大が目指されています。

成果目標3:日本の経済成長への還元

グローバル化の急速な進展に伴い、アメリカやイギリス等はサービス産業の一つとして高等教育を積極的に輸出しており、日本でも留学生の受け入れ拡充策が検討されています。「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」も、ある程度の経済成長を遂げた新興国に対し、一方的に支援するのではなく、「日本型教育」をサービス産業の一つとして戦略的に提供していくことを狙っているようです。さらには、海外へ進出する日本企業が、日本型教育で育った人材を活用し、質の高い製品・サービスを現地の労働力により供給することができるようになることも目指されています。

~教育の国際化、海外展開~

海外に在留する日本人は2017年に135万人を超え、日本に在留する外国人は2018年に260万人を超えました。また全世界における留学生交流数は1990年代から急激に増加し、2015年時点で460万人、2040年には約660万人と推計されています。
SDGsのような目標に向かい世界が協働して支援しようという動きの一方、経済、社会、文化等の様々な面における国際化の進展の中で、各国の教育の国際化や海外展開も活発に進みつつあります。
例えば、既にアメリカ、オーストラリア、イギリス、フランスなどの国々は高等教育を一つの輸出産業と位置づけ、留学生の獲得に戦略的に取り組んでいるようです。留学生を自国の高等教育に取り込み、授業料を払って滞在してもらうことを直接的な自国の利益として認識しているということです。
また、留学という形に限らず、海外分校の設置やeラーニング等を通じて、「国境を越える教育(transnational education: TNE)」を提供する動きもあります。不法入国者・就労者の問題もあり、ビザの取得要件が厳格化されるなどの背景からも、自国にいながら他国の国際的に評価の高い大学の学位を取得するケースも珍しくなくなってきているようです。日本でも、海外への拠点設置や海外の大学との単位互換等の協定の締結等が行われており、少しずつですがその数が増加しています。

第3回は、「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」の取り組みの一つとして進められている「パイロット事業」から、具体的なニーズやモデル事業の例をみていきたいと思います。
 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上暁代

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