意外と知らない"教育におけるデータ活用"(第1回)

 

「データ活用」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?インターネット通販の、顧客の購入履歴を分析して別の商品をおすすめする機能を思い出した人も多いでしょう。スマートウォッチでランニングした距離や心拍数を計測しているという人もいらっしゃるかもしれません。現代ではあらゆる場面でデータ活用への注目が集まっており、教育もその例外ではありません。しかし、「教育現場のデータ活用って、ピンとこない」という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はこれからますます注目される「教育におけるデータ活用」について、3回にわたり紹介します。

第1回は、なぜ教育現場で「データ活用」が必要とされるようになってきたのか、どんなデータを、誰がどのように活用できるのかについて、紹介します。

教育におけるデータ活用への注目が高まっているのはなぜ?

検証改善サイクルの確立と、テクノロジーの進化

「教育におけるデータ活用」とは、学校での日々の教育改善から教育政策の立案まで、様々な場でデータを活用しようという取組です。 出欠席の記録や課題の提出状況、テスト結果など、すでにあるデータを今まで以上に利用する、 また学習プロセスや子供たちの意識などもっと多くのデータを取得して活用するということが行われています。

教育においてデータ活用が注目されている背景には、「客観的なデータに基づく教育課題の改善」と「テクノロジーの教育現場への導入」という2つの動きの高まりがあります。

実は日本の教育政策の中では、2000年代初頭から、国、教育委員会、学校という各レベルにおいて、教育目標を明確化し、目標が実現されているか評価・検証することが強く求められるようになりました(2005年の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」 )。2007年から始まった「全国学力・学習状況調査」は、子供たちの学習の到達度・理解度等を客観的なデータとして把握し、教育改善の手掛かりを得て、継続的な検証改善サイクルを確立することを目的としています。 2008年から現在に至るまで、5年ごとに計画・実行されてきた「教育振興基本計画」 においても、一貫して教育政策における「PDCAサイクル」の確立が重視されています。PDCAとは、目標や計画を立て(Plan)、それを実行し(Do)、結果を検証し(Check)、課題を改善する(Action)という一連の流れを指し、客観的なデータに基づいて教育課題を把握・改善する動きがさらに進められているのです。

一方でここ数年の間に、情報テクノロジーが広く教育に活用されるようになってきました。教育(Education)とテクノロジー(Technology)を合わせた造語である、EdTech(エドテック)という言葉をご存知の方もいるでしょう 。「教育におけるAI、ビッグデータ等の様々な新しいテクノロジーを活用したあらゆる取組」のことを指し、プログラミング教育のための教材や、オンライン学習サービスなど、新たな教育サービスが次々と登場しています。
また、2019年末に発表された文科省の「GIGAスクール構想」 によって、小中学校では児童生徒に1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークの整備が進んでいます。
このように教育現場で情報テクノロジーの活用が進むことによって、学びに関する様々なデータが蓄積されるようになり、それを教育現場の課題解決に役立てることが期待されているのです。

学校にはどんなデータがあるの?

教育に関する「データ」には、どのようなものがあるのでしょうか。いくつかの視点でみていきましょう。

データの形式:アナログとデジタル

「データ」というと、パソコン上などに蓄積されるデジタルデータのイメージが強いかもしれませんが、教員用の手帳や子供のノートのような、紙に記録された内容も「データ」と呼ぶことができます。紙でもパソコンでも、基本的には誰かが書いたり入力したりすることによってデータがたまっていきます。

ただしデータ分析などをする場合は、紙に残された内容をパソコンなどに入力し、計算や加工をしやすくする必要があります。例えば、子供へのアンケート調査を紙で行った後、表計算ソフトに回答を入力して集計する場合です。

しかし中には意識的に入力しなくても、システムを利用するだけで、データが自動的に取得・蓄積され、集計される場合もあります。例えば、オンライン学習システムの利用履歴です。利用した日時や回数、学んだ教科、解答した問題の正誤等が自動的に取得・蓄積されていて、単元ごとの正答率などがいつでも確認できるものもあります。

データの種類:学習面と生活面

ではここから、具体的なデータの種類について学習面と生活面に分けて見ていきましょう。

子供の学びに関わるデータとしては、まず子供が学習の過程で生み出すもの、学習の成果を測るために生み出すものがあります。授業中に作るレポートや作品のように、学習の過程で生み出されたもので、学習成果を測る場合もあります。

  • 学習過程に関するデータ:デジタルドリルや授業支援システムの学習履歴データ、学習者用端末(タブレットなど)の利用ログ(利用日時や利用したシステムの記録など)、子供のノートや授業中の提出物など
  • 学習成果に関するデータ:定期テストや単元テストの結果、制作した作品の写真やデータ、成績評定など

また、学校や教員が作り出すデータとして、教育カリキュラム、指導計画、授業内容(板書や授業で使用した教材データなど)が挙げられます。
さらに、国全体や自治体などの調査で大規模に作り出されるデータとして、学力調査や学習時間や学習意欲などを子供に尋ねるアンケート調査結果などがあります。

子供の生活や健康に関するデータとしては、小学校や中学校には、出欠席情報、保健室利用情報、健康診断情報、体力測定データ、生活習慣に関するアンケート調査結果などがあります。例えば出欠席情報は、教室で紙の出席簿に記録し、後で教員が「校務支援システム」に入力することが多いのではないでしょうか。

 

だれがデータを分析・活用するの?

子供・教員から自治体・国レベルまで

教育に関するデータは、日々の授業改善から教育政策の立案まで、様々な活動に役立てることができます。まずは子供(学習者)や教員など個人レベルの活用。そして学校全体での活用。さらには地方自治体や国など社会レベルの活用が考えられます。

  • 教員が、日々の様子や学習状況・生活状況のデータから、個別に支援が必要な子供に対して声を掛ける。
  • 学校長や教員らが、子供たちの姿や様々なデータを基に、教育課程(カリキュラム)を編成、実施する。(カリキュラム・マネジメント)
  • 教育委員会が、地域の学校に通う子供たちの学力調査の結果や、家庭生活・学習状況についてのアンケート調査の結果を分析し、地域の子供たちの学力を向上させる教育政策を検討、実行する。

これらは、データが何を示しているのかを人間が解釈し、教育の現状理解と今後の方針についての議論を深め、自分たちの計画や行動の根拠にデータを活用する方法だといえます。データを基に議論するプロセスのなかで、様々な立場の視点から教育改善の検討がなされること、データに基づく認識という同じ土台の上で改善の方向性を合わせ、課題に取り組むことができることがポイントです。

AIがデータ活用を支援

これに対し近年では、データを機械が分析・予測し、1人1人に合った問題を出したり、アドバイスしてくれるというサービスが注目されています。研究と実用化の真っ最中であり、子供や教員が、提供された情報をもとに効果的な学習や授業ができると期待されています。

  • 子供がタブレットでオンライン学習サービスを利用すると、AIが学習履歴を分析し、その子供の習熟度や得意不得意に応じた問題や教材が提供される。
  • 教室内に設置したマイクで協働学習中の教員・子供の発話を捉え、AIなどを使って音声からテキストへの変換、音声データの分析等が行われる。発話テキスト・発話量・感情変化・学習すべきキーワードの出現状況などが、教員向けタブレットに表示される。

これらは、「個別の子供に合った学習を提供したい」などの目的を達成するために、先端技術を使ってデータ活用を支援する方法だといえます。音声や手書き文字の認識精度、出題ロジックやアドバイスの有効性などの技術の向上は、大学や企業の研究者らによる研究や、サービス開発に支えられています 。

教育におけるデータ活用について、イメージがわいてきたでしょうか?

第2回では、より具体的なデータ活用の内容について、学校で教育データを活用する実証事業の取組をもとに紹介します。

 
 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 伊藤志帆

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