意外と知らない"教育におけるデータ活用"(第2回)総務省・文部科学省の実証事業の成果から

 

第1回で紹介したように今「教育におけるデータ活用」が注目されていますが、忙しい先生方が教育データを活用するには教育データの「見える化」が必要です。そこで、総務省、文部科学省は、2017~2019年度の3年間、データ活用による学校教育の質向上の実証事業を行いました。(総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」、文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業/エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」)この事業では、教職員が利用する「校務系システム」と、児童生徒も利用する「授業・学習系システム」両方のデータを、児童生徒のIDで連携し、1つのシステムから見られるような仕組みが構築されました。第2回では、この事業の成果として公開された「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」をもとに教育におけるデータ活用の方法や実例を紹介します。

学校内に蓄積されているデータ

教育の情報化が進み、先生が校務支援システムで通知表を作ったり、児童生徒たちがデジタルドリルで問題に答えたり、協働学習支援ツールで発表資料を作ったり、学校内では日常的にICTが活用されるようになってきました。その結果、校内サーバやクラウド上に、出欠席情報や成績情報、保健室利用記録、デジタルドリルや協働学習支援ツールの学習記録データ等がどんどん蓄積されています。先生が児童生徒たちの成績・採点や日頃の行いを書きとめておく「えんま帳」や、児童生徒が回答するアンケートもデジタル化が進んできています。システム上でテストの採点をすると、自動的に集計してくれるシステムも導入され始めています。

データ活用の事例

文部科学省「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」には、蓄積されたデータを1つにまとめて、使いたいときに使いたい形で表示できる「教育データ可視化システム」を構築し、教員による学習指導や生徒指導等の質の向上や学級・学校運営の改善等に役立てた事例が掲載されています。さまざまなデータが集約・見える化されると、何ができるようになるのでしょうか。

①児童生徒1人1人の学習面の状況を把握する

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.18より転載

授業での様子やテスト結果等から、現在の様子を把握し、支援が必要そうな児童生徒をリストアップすることは多くの先生が行っているでしょう。しかし、どこでつまずいたのかはっきりわからないので、どの学年のどの内容にさかのぼって復習を支援すべきかわからないという悩みがあります。また、アンケート結果等から学習意欲が低いとわかっても、以前からなのか、最近の変化なのかはよくわかりません。

「教育データ可視化システム」では、テストの点数やアンケートの回答の推移をグラフ等で確認できます。先生は、いつどのような変化があったのかを確認して、成績が急に下がった児童生徒や、学習意欲が急に下がった児童生徒について、原因を調査し、授業中に声をかけるなど支援しました。成績が悪くなくても、学習意欲が下がったなど、見落としがちな児童生徒にも気付けました。

②授業を改善する

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.18より転載

クラス替えの後、自分が新しく担任になったクラスの児童生徒たちは何が得意で何が苦手なのか、すぐに把握できず、実態に合っていない授業をしてしまうという課題があります。「教育データ可視化システム」では、今年度のクラス単位で、昨年度までのデータを確認できます。

自分が担任になってからも、例えば、ある先生は、5月に実施したアンケート結果から、このクラスは「自分の意見を言うときは、なぜそう思うのか、理由も説明している」と「グループやクラスの色々な意見を生かして考えを深めたり、広げたりしている」が弱いという課題を把握し、これを受けて学級目標「論理的に説明する力、他者の意見から自分の考えを深める力を伸ばす」を立てました。7月、11月に実施したアンケートで、上記の項目に「とてもあてはまる」と回答する児童生徒が増えたことで、授業で提示する学習課題やワークシートを工夫した効果を確認できました。

③児童生徒1人1人の学校生活の状況を把握する

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.19より転載

保健室によく行く児童生徒や、不登校傾向がある児童生徒の支援をする際、どのようなアプローチがいいのか、なかなかつかめないという悩みがあります。「教育データ可視化システム」では、学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の関係者がいつどのような働きかけをしたのか入力することで、次のケース会議まで待たずに情報共有できたり、またケース会議の際も、欠席・遅刻早退・保健室利用の状況の変化をグラフで確認しながら、改善傾向なのか、悪化傾向なのかを客観的に把握することができました。

特定の曜日の保健室利用や欠席が続くとアラートを出す機能は、ある教科の授業を苦痛に感じている、ある曜日に家庭で行事があるといった原因の調査に役立ちそうです。

また、支援が必要なのに見落とされがちな児童生徒についても、関係者間でデータに基づいて意識共有し、見守ることで、問題の発生を未然に防げると好評でした。若い先生は現時点で表面化している問題が無いと、潜在的な課題に気付けず、そのままにしがちですが、担任外のベテラン教員もデータを確認できるので、普段の様子から最近何となく元気がないなと感じたり、アンケート結果で自尊感情や学校生活満足度が低い児童生徒について、注意喚起することができました。

④学級・学年全体の状況を把握する

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.19より転載

下駄箱の状態から、その学級・学年の状況を把握できるなどと言われますが、他の学級・学年と、テスト結果の得点分布や遅刻の状況等のデータを比較すると、課題があることが一目瞭然となり、関係者間で足並みを揃えて指導を行うことができました。

⑤保護者に具体的な説明をする

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.18より転載

保護者面談や、成績表の所見欄を書く際、目立たない児童生徒については、自分が担当していない教科や部活動でいつどのような成長があったのか把握できていなかったり、記憶があいまいだったりして、あまり説得力のある説明ができないという課題がありました。実証事業では、「教育データ可視化システム」に保護者面談用のページを用意し、成績や学習意欲アンケートの推移のグラフ、授業中に作成したデジタルワークシート等を保護者に見せ、別ページで他の教員が入力した所見も確認しながら、自信を持って努力や活躍の様子や課題を伝えることができました。

⑥学校全体の状況を多面的に把握する

「教育の質の向上に向けたデータ連携・活用ガイドブック」P.19より転載

管理職の先生が校門での朝の挨拶等で気になった児童生徒について、顔写真の一覧から検索してデータを確認して、担任や関係教員と話し合い、問題を早期に発見・解決できました。

他校とデータを比較できると、自校に対する先入観に気付かされることもありそうです。新しく赴任した校長先生も、年度当初から自校の状況を客観的に把握して、実態に即した学校経営方針や校内研修計画を立てることができそうですね。

データ活用を促す工夫と相乗効果

学校全体でデータを活用するには、全ての教員が協力してデータを蓄積する必要があります。教員の負担が増えないよう、会議を削減してデータ入力の時間にしたり、出欠データを教室で座席表をタッチするだけで入力できるようにしたりといった工夫が見られました。顔認証システムを導入した地域もありました。
データを見ながら話し合うことでベテラン教員のノウハウを若手教員に伝えられたり、担任だけが学級の課題を抱え込んでしまうことがなくなり、「チーム学校」として組織的に早期発見・対応・未然防止するシステムが構築されました。
第3回では、教育データを可視化する手順や留意点等を紹介します。
 
 

 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子

 

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