意外と知らない"教育とAI"(第3回)アダプティブ・ラーニング ― 子どもたち一人ひとりに最適化された学び ―

 

意外と知らない"教育とAI"の第3回では、AI(人工知能)技術が教育分野で活用されている事例として、「アダプティブ・ラーニング」と呼ばれる学習手法について取り上げます。

アダプティブ・ラーニングは、子ども一人ひとりに最適化された学習方法で学べることが特徴です。 アダプティブ・ラーニングを提供する学習システムとして、AI型ドリル教材が複数登場していますので、この中からいくつかご紹介します。

 

一律・一斉・一方向型授業の限界

学校の授業や学習環境には、あまり効率的とは言えない面がありました。例えば、小学校や中学校の学齢別クラス編成が挙げられます。小学校低学年の段階では、生まれた月や発達の度合いによって、個人差が大きいにもかかわらず、学力差に応じたクラス編成で授業を実施しているケースは少なく、多くの学校が一律に同じ授業を行っています。高学年になって、習熟度別クラスで授業を行われるにしても、そのクラス内には、やはり学力差があるでしょう。結果として、すぐに学習内容が理解できる子どもは授業が退屈になり、また、理解が遅い子どもは授業について行けずに、やはり退屈・苦痛に感じてしまいます。これは、学習指導要領において、学年ごとに教えるべき単元・学習内容が明確に決められていることも要因の一つと考えられます。

日本では義務教育段階では習得状況によって留年させることはなく、皆が進級して卒業していきます。小学校での授業内容が理解できていない状態だと、たとえ中学校に上がっても、中学校の授業にはついていけなくなってしまいますし、さらに高校の授業となると言わずもがなです。

学習は積み重ねですので、まず基礎となる概念を理解していないと、そのひとつ上の概念は理解できません。たとえば、高校で学ぶ「三角比の定義」は、中学校での「三角形の内角」の知識が必要ですし、さらには、小学校で学ぶ「図形の面積」が基礎知識となります。理想的な学習とは、1つひとつの単元をしっかりと理解してから、また次の単元に進むことでしょう。しかし、学習期間がきちんと決められている小学校や中学校では、それを行うのはなかなか難しいのが現実です。

アダプティブ・ラーニングとは

上述のような学校教育の限界を解決する方法として考えられているのが、アダプティブ・ラーニングです。日本語では「適応学習」と呼ばれますが、子どもの習熟度や理解度に合わせることが可能な教育ビッグデータやAI技術を使った新しい教育手法です。

子どもの習熟度や理解度に応じて出題する問題を変えたり、間違えた問題をもう一度出題して解答させたり、授業内容や学習する順番を変更するなど、子ども一人ひとりに個別最適化されたオーダーメイドのような学び方を提示します。

学びの個別最適化は、学習効率を高めるだけではなく、優秀な子どもの特徴から成績に結び付く要因を分析し、他の子どもへの指導に活用する、認知特性や学習障害に対応した学習方法・教材を提供するなど、今後さらなる進化が期待される分野です。

また、この学びの個別最適化の重要性については、経済産業省による有識者会議「未来の教室」とEdTech研究会による第2次提言「未来の教室」ビジョン (2019年6月)でも、次のように述べられています。

「学びの自立化・個別最適化」とは、子ども達一人ひとりの個性や特徴、そして興味関心や学習の到達度も異なることを前提にして、各自にとって最適で自立的な学習機会を提供していくことである。そのためには、AI(人工知能)やデータの力を借りて、子ども達一人ひとりに適した多様な学習方法を見出し、従来の一律・一斉・一方向型の授業から、EdTech を用いた自学自習と学び合いへと学び方の重心を移すべきである。このとき、一人ひとりが EdTech の活用を通じて日々蓄積される学習ログの分析をもとに、個別学習計画を随時更新しながら、自分に最適な学び方を模索するサイクルを構築する必要がある。

「未来の教室」ビジョン 経済産業省 「未来の教室」と EdTech 研究会 第2次提言 pdf
(P.2~3 1.「令和の教育改革」に向けた課題 (3)3つの柱:「学びの STEAM 化」「学びの自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」 )より
では、個別最適な学びを提供するアダプティブ・ラーニングの事例を3つ紹介します。

レコメンドエンジン

アダプティブ・ラーニングの事例(1)

日本でも近年アダプティブ・ラーニングの取り組みが進められていますが、まずは先進的なアメリカの事例からです。アダプティブ・ラーニングのプラットフォームとして、2008年にアメリカで設立されたのが「ニュートン(Knewton)」です。ニュートンはニューヨークに本社がある、世界中に広く展開しているアダプティブ・ラーニングの先進企業です。

ニュートンのアダプティブ・ラーニングプラットフォームで提供されるレコメンデーション機能では、学習者本人の知識や理解度などの学習履歴データから、学習者の習熟度や理解に合わせて、リアルタイムに最適な問題がレコメンド(提案)されます。これにより、わかりきっている問題を何度も解答する必要はなくなり、問題が難しすぎて解答に行き詰まるということもなくなります。加えて、第2回で紹介したラーニング・アナリティクス(学習分析)の機能も有しています。これらの機能により学習者の状況を把握し、個人の理解度に合わせた学習サービスを提供しています。ニュートンは、学習アプリケーションの裏側に搭載されるレコメンドエンジンとして機能する点が特徴です。

ニュートンのアダプティブ・ラーニングは、心理統計学、認知学習理論など人間の学習の仕組みに関する数十年にわたる研究をもとに開発されたもので、これまでに、テストの成績がアップしたり、大学の中退者が56%も減少したりするなど、さまざまな成果を上げています。また、アメリカのメリーランド州バルチモアの貧困地区にある小中学校では、読解テストや数学テストで目標成績に達した子どもの数が、20%以上も増えたことが報告されています。

人工知能型教材

アダプティブ・ラーニングの事例(2)

次に、日本でのアダプティブ・ラーニングの取り組み事例として「キュビナ(Qubena)」を紹介します。

キュビナは、算数・数学のAI(人工知能)型タブレット教材です。子どもがタブレット端末で学習した操作ログや計算過程、回答データを、AIを用いて分析することで、つまずく原因となっているポイントを特定し、その子どもが解くべき問題へと自動的に誘導することで効率的な学習を実現するアダプティブ・ラーニング教材です。同じ誤答でも、間違え方によって、次に別の問題を提示します。

AIが一人ひとりの学習フローを最適化するので、クラス内の子ども間に学力の差がある場合にも、基礎から応用まで様々なレベルに応じた学習が可能になることが特徴です。

図2 アダプティブ・ラーニングによる学習の効率化

個別最適な学びを提供することは、学習を効率化することにも寄与します。実際、キュビナを使って学習した千代田区立麹町中学校の事例では、学習速度が従来の授業よりも2倍速くなったことが報告されています。

効率のよい学習で捻出した時間で、より先の単元の学習や探究学習を行い、さらなる知識を習得するサイクルの構築にもつながっているということも紹介されています。

AI活用ラーニングシステム

アダプティブ・ラーニングの事例(3)

図3【生徒に】“超”オーダーメイド学習

日本のアダプティブ・ラーニングの事例をもう一つ紹介します。

子ども一人ひとりの「得意」「苦手」「伸び」「つまずき」「集中状態」「忘却度」などのデータをAIが分析し、その子どもにあった次世代の個人レッスンを作成する「アタマプラス(atama+)」です。

アタマプラスは、2017年4月に設立されたベンチャー企業により開発されたAI活用ラーニングシステムです。

一般的な学習方法では、教科書や参考書の順番に沿って、単元ごとに学んでいきます。しかし、多くの教科では、単元のつながりは一方向ではなく、複雑に関係しているはずです。アタマプラスは、AIが教科の体系や得意、苦手、目標、過去の学習内容などを瞬時に分析し、一人ひとりに最適な学習カリキュラムを自動で作成します。

それぞれの子どもにとって理解しやすい順番で学びを進めることで、苦手な単元も最小限の学習量で克服できるようになるとしています。

図4【先生に】コーチングによる“超”学習サポート

また、アタマプラスは、AI技術により今まで実現が難しかった「超」個別指導学習を可能にするとともに、データに基づいた的確なコーチングにより、生徒のやる気を引き出すことをサポートする機能も有しています。

AIが、子どもたちの学習中のデータから子どもの集中度や学習の進捗を解析し、先生のタブレットへリアルタイムにコーチングのための情報を提供します。一人ひとりのコンディションを「見える化」した上で、いつ、どのような声がけをすると効果的かを提案します。AIと人間の連携により子どもの能力を最大限伸ばそうとする点が特徴です。

これらの機能により、一斉授業では不可能だった、一人ひとりに寄り添う学習の実現を目指したラーニングシステムです。アタマプラスの導入により、学習効率が向上し、知識の習得までにかかる時間が5分の1程度になるとうたっています。

まとめ

先生は大人数の子どもをひとりで教えているので、個別に指導する時間はどうしても限られてしまいます。このような問題を解決してくれる仕組みが、まさにアダプティブ・ラーニングというわけです。

現在のAI技術には、課題が多く、限界もありますが、大量のデータからその子の弱点とするポイントを分析し、つまずきの原因である問題を探し出すような処理は得意です。その子が理解できなかった問題がわかれば、あとはその単元まで戻って授業の動画などで学習し、理解してもらえばよいだけです。

アダプティブ・ラーニングによって、子どもの理解度に応じたきめ細やかな指導を繰り返し、知識の漏れをなくして、学習を積み重ねていくことができます。

重要なことは、たとえ途中の段階では子どもの学習の進捗に差があっても、最終的には、全員が基礎学力を身につけられるようになることです。AI技術を使った、子ども一人ひとりに最適化された学習方法を提供するアダプティブ・ラーニングは、今後もその進化が期待されます。

最後に

これまで3回にわたって、教育とAIについてご紹介してきました。AI(人工知能)の技術は、日を追うごとに発展しています。AIの技術革新と並行して、それらが教育分野で活用される範囲も今後ますます広がっていくでしょう。AI技術をはじめとした情報革命による教育分野の大きな変化の流れは、引き続き注目に値します
 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 河村征宏

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