意外と知らない"教育の情報化に係る制度改正"(第1回)学習者用デジタル教科書の活用

 

「GIGAスクール構想」による学校のネットワーク環境や1人1台端末等のハード面の整備に合わせて、この効果を存分に発揮させるための制度改正も進められていることをご存知ですか。今年度(2020年度)はGIGAスクール構想に加え、「新学習指導要領のスタート」「新型コロナウィルス感染症による臨時休校」もあり、教育の情報化は大きな転換点を迎えています。第1回では「学習者用デジタル教科書の活用」、第2回では「遠隔・オンライン教育」をテーマに、旧来の制度との齟齬解消に向けた制度改正の現状をお伝えします。

 

学校教育の情報化の推進に関する法律

我が国の学校におけるICTの活用については、国会においても大きな課題として認識され、教育における情報通信(ICT)の利活用推進をめざす議員連盟が2015年2月に設立されました。そして、2019年6月に、第198回通常国会において「学校教育の情報化の推進に関する法律」が全会一致で可決・成立し、その1週間後に公布・施行されました。同法では、学校教育の情報化を進めることによって、家庭の経済状況や地域、障害の有無にかかわらず、全ての児童生徒がICT教育を等しく受けられるようにするとともに、事務作業を効率化し、教職員の負担軽減につなげるなど、国や地方における学校教育の情報化に向けた推進計画の策定と推進計画を実施する責務が明記されています。また、内閣、総務省、文部科学省、経済産業省の各担当者からなる「学校教育情報化推進会議」を設け、学校教育の情報化を一体的かつ効果的に進めることも定められています。 

基本施策には、「デジタル教材などの開発および普及の推進」「障害のある児童生徒の教育環境の整備」「相当の期間学校を欠席する児童生徒に対する教育の機会確保」「学校の教職員の資質の向上」「学校における情報通信技術活用のための環境の整備」「学習の継続的な支援などのための体制の整備」など11項目が設定されています。その項目の1つに「教科書に係る制度の見直し」があります。

学校教育の情報化の推進に関する法律 第11条第1項

国は、前条第1項の学習を促進するため、教科書として使用することが適切な内容のデジタル教材について各教科等の授業においてデジタル教科書として使用することができるよう、その教育効果を検証しつつ、教科書に係る制度(教科書の位置付け及び教科書に係る検定、義務教育諸学校の児童生徒への教科書の無償の供与、教科書への掲載に係る著作物の利用等に関する制度をいう。以下同じ。)について検討を加え、その結果に基づき,必要な措置を講ずるものとすること。

デジタル教科書の範囲

条文に「教科書として使用することが適切な内容のデジタル教材について各教科等の授業においてデジタル教科書として使用することができるよう」とありますが、現在、学校教育法において「紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材」とされています。そのため、教科書内の文字や図表の拡大縮小、ハイライト、リフロー(ウィンドウの幅に合わせて改行する)といった機能は「デジタル教科書」の機能に位置付けられますが、教科書に動画やアニメーション、音声認識による発音チェック、(端末機能によらない)音声読み上げ、音声・音楽、ドリル・ワーク、参考資料(用語集や資料集等)、本文・図表等の抜き出し等の機能を追加して一体的に使用しようとすると、それは「デジタル教材」と呼ばれ、「デジタル教科書」ではないとされます。

紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する際の基準

現時点ではまだ「紙の教科書と同等」ではありませんが、学校教育法等の一部を改正する法律(平成 30 年法律第 39 号)等の法令が2019 年4月1日から施行され、児童生徒の学習の充実や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、一定の基準の下で、必要に応じ、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用することができるようになりました。この「一定の基準」として設けられたのが、以下の通り「各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと」でした。これは学習者用デジタル教科書の導入を段階的に進めるために定められています。

1.教育の充実を図るため、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する際の基準:

① 紙の教科書と学習者用デジタル教科書を適切に組み合わせ、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する授業は、各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと。

② 児童生徒がそれぞれ紙の教科書を使用できるようにしておくこと。

③ 児童生徒がそれぞれのコンピュータにおいて学習者用デジタル教科書を使用すること。

④ 採光・照明等に関し児童生徒の健康保護の観点から適切な配慮がなされていること。

⑤ コンピュータ等の故障により学習に支障が生じないよう適切な配慮がなされていること。

⑥ 学習者用デジタル教科書を使用した指導方法の効果を把握し、その改善に努めること。

2.児童生徒の学習上の困難を低減させるため紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する際の基準 (1.の基準に加え):

① 障害等の事由に応じた適切な配慮がなされていること。

② 紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用する授業が、各教科等の授業時数の2分の1以上となる場合には、児童生徒の学習及び健康の状況の把握に特に意を用いること。

文部科学省「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」

学習者用デジタル教科書の費用は1人1教科200~2000円かかるため、2019年度に公立小学校1校以上で導入した自治体が6.1%、2020年度に1校以上で導入することを検討している自治体は14.7%でしたが、2020年6月に設置された文部科学省「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」は、現在、次の小学校の教科書改訂時期に当たる2024年度に本格導入することを視野にこの「学習者用デジタル教科書を使用する授業は、各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと」という基準の見直しを検討しています。

この検討会議では、(1)現状 の教科書制度上のデジタル教科書が学校現場において有効活用されるための在り方と、(2)教科書制度の在り方について検討されており、「デジタル教科書を(無償給与の対象とする)法令上の『教科用図書』として位置付けるべきか」「教科書検定や教科書採択、教科書の供給といった現行の教科書制度等の見直しの必要があるか」についても検討されています。

2024年度に本格導入するには、2021年度に編集、2022年度に検定、2023年に採択というスケジュールになるため、2021年夏頃までに方向性を示す必要があり、月1回程度の頻度で会議が開催されています。

なお文部科学省「令和元年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、2020年3月時点の指導者用デジタル教科書整備率は小学校60.1%、中学校65.6%、高等学校28.0%、学習者用デジタル教科書の整備率は小学校7.7%、9.2%、高等学校5.2%で、指導者用デジタル教科書は小中学校に定着しつつあるようです。

著作権法の一部改正

学校教育の情報化の推進に関する法律の第11条第1項の後半には「教科書への掲載に係る著作物の利用等に関する制度」についても言及されています。著作権についても、「学校教育法等の一部を改正する法律等の法令」によって、通常の紙の教科書と同様に、掲載された著作物を権利者の許諾を得ずに「デジタル教科書」に掲載し、必要な利用を行うことが認められました。また、当該著作物の利用に係る補償金等の規定について整備する等の措置を講ずることとされました。なお現在、紙の教科書の補償金は、教科書定価の3%程度となっています。

子どもたちの端末にデジタル教科書の本棚ができるのか、今後の動向が注目されます。次回は、遠隔・オンライン教育をテーマに制度改正の現状をお伝えします。

 

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 秋野光哉

 

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