意外と知らない環境作り~特別支援教育の視点から~(第2回)「構造化」による環境づくり

 

1回で紹介したように、学校においては平等な教育機会を提供するための環境づくりが求められています。実際にはどのように教育環境の整備を進めるとよいのでしょうか。第2回は主に自閉症スペクトラムの人にとっての環境整備である「構造化」について取り上げていきます。

 

構造化とは

「構造化」とは、何かの活動を行う前に、その活動を行いやすくするために環境を整えることです。主に自閉症スペクトラムの子どもやその家族の支援を目的として米国で開発された、生涯支援プログラム「TEACCHプログラム(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children)」で用いられている手法です。自閉症スペクトラムの人は口頭での説明や声かけなどの耳から情報を得る聴覚的な情報処理よりも、文字や絵などから情報を得る視覚的な情報処理を得意としているため、いつ・どこで・何を・どのようにするのかを視覚的に分かりやすいよう、環境を整えます。

TEACCHプログラムにおける構造化は、自閉症スペクトラムの人を対象としていますが、自閉症スペクトラムに限らず、街中にはたくさん人を対象とした構造化のアイディアが施されています。例えば視覚障害者が歩きやすいように点字ブロックを設置したり、聴覚障害者のためにテレビや映画に字幕をつけたりすることも、環境を整えていると考えることができるため、構造化に該当します。

構造化の考え方は、障害のある方々だけではなく、障害のない子どもたちや、我々大人にとっても有効です。例えばふだん私たちが当たり前に目にしている駅のゴミ箱にも、構造化が実施されています。並べられた3つごみ箱がそれぞれ何を捨てる場所なのか、「燃えるゴミ」「かん・ペットボトル」「新聞・雑誌」と文字だけのラベルがあるよりも、<写真1>のように、色と絵も示されている方が分かりやすいのではないでしょうか。

駅の階段にも<写真2>のような矢印マークがあり、どちら側を通行すれば良いのか、一目でわかるように工夫されています。

<写真3>禁煙マークや<写真4>トイレの男女のマークなどは、ユニバーサルデザインでもあり、構造化のアイディアであるとも考えられます。このように、私達の身近なところにも構造化されたものがたくさんあることが分かります。

  • <写真1>ごみ箱

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  • <写真2>階段

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  • <写真3>禁煙マーク

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  • <写真4>トイレの男女のマーク

構造化の種類

TEACCHプログラムにおける「構造化」では、以下の3種類が提唱されています。それぞれの構造化について、詳しく紹介していきます。

①物理的構造化 (環境の構造化) その場が何をする場か明確にする
②時間の構造化 (スケジュール) 次に何をするのかを分かりやすく伝える
③活動の構造化 (アクティビティシステム) 何を、どのくらい、どのように行えばよいかをわかりやすくする(ワークシステム)

①物理的構造化

部屋や作業所などの家具や使用する道具などの配置を工夫し、視覚的に分かりやすい境界を作ることで、どこでどんな活動をするのかを理解しやすくします。自閉症スペクトラムの人は1つの空間が色々な目的に用いられると、その場所が何をする場所か分からなくなってしまうことがあります。そのため1つの場所には1つの目的を定めて、空間の目的を分かりやすくします。

身近な例としては、個室になっているトイレとお風呂が挙げられます。トイレは排泄するところ、お風呂は体を洗うところと、活動と場所を1対1で結びつけます。他にも、学校においては教室の近くに音を仕切ることのできる空間を作ることで、学習する場所と気持ちを落ち着ける場所を明確にわけ、どこで何をするのか分かりやすくする工夫が挙げられます。ここは何をする場所なのか、明確にすることによって自閉症スペクトラムの子どもは学習に集中しやすくなります。

②時間の構造化(スケジュール)

どんな活動があるのか、その流れがどうなっているのかを視覚的に示し、次に何をしなければならないかを分かりやすくします。自閉症スペクトラムの人は、先の見通しをもつことが苦手で「次に何が起こるのだろう」と不安に思ったり「何か嫌なことが起こるかもしれない」と考えたりしてストレスを感じてしまうことがあります。そのため、どのような活動をするのか、次に何をするのかを視覚的に分かりやすく提示します。例えば1日の活動内容のカードを上から順に並べて、次に何をするのか示します。

スケジュール管理の教材例

③活動の構造化(アクティビティシステム)

やるべき作業や活動を理解するための工夫です。自閉症スペクトラムの人の多くは一部に意識が集中してしまい、全体を把握できなくなってしまうことがあります。そこで、「何を」「いつまでに」「どのようなやり方でするのか」「終わったら次に何をするか」を分かりやすく提示することで、そこで何をするのか全体像を分かりやすく整理します。

例えば下のように登校後に行う朝の準備で必要なこと・順番を手順化して提示することで、児童・生徒が自主的に行えるようにします。

朝の準備
  1. かばんをあける
  2. 連絡帳を出す
  3. 着替える
  4. 服を片づける
  5. かばんをしまう
  6. イスに座る

最近は新型コロナウイルス感染症対策で手洗いをする機会が増えました。テレビや新聞などで、「よく手洗いをしてください」「丁寧に手洗いをしてください」と言われることが多かったと思います。ふだん何気なく耳にしていますが、「よく」「しっかり」とは具体的にどのようなものでしょうか。

具体的にどのような順番で、そのくらいの時間、その部分を洗うのか提示した方が、抽象的に「よく」「丁寧に」などと言われるよりも分かりやすいと思いませんか。冒頭に記したように、構造化された障がいのある方々にとっての「分かりやすい」は一般の子どもや、大人にとっての「分かりやすい」でもあるのです。

ユニバーサルデザインとの違い

「構造化」について説明しましたが、「ユニバーサルデザインと何が違うの?」と思った方もいるのではないでしょうか。最後に「構造化」と「ユニバーサルデザイン」の違いについて説明します。ユニバーサルデザイン(Universal Design)とは「障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいようあらかじめ都市や生活環境をデザインする考え方のこと」を指します。例えばユニバーサルデザインとして挙げられる点字ブロックやシャンプーの印などは、より多くの人が活動しやすいように環境を整えているという意味で視覚障害者にとっての構造化とも言うことができ、ユニバーサルデザインと構造化は考え方が一致する部分があります。

しかし、例えば視覚障害者への配慮として音声出力装置のついたパソコンソフトなどは、音に敏感な自閉症スペクトラムの人にとっては抵抗がある場合があります。ユニバーサルデザインとしてあらかじめデザインされた工夫が、かえって抵抗を感じるものとなる場合があるのです。このように多様な障害特性の配慮が同じ場面にあることによって、ある人にはバリアフリーとなるけれども、別の人にとっては困難が生じてしまうことを「バリアフリーコンフリクト」と呼びます。ユニバーサルデザインはより多くの人に合うようにあらかじめデザインするものですが、構造化は、個々の自閉症スペクトラムの特性を把握しその人に合わせた方法で行います。この方向性の違いが、構造化とユニバーサルデザインの違いではないでしょうか。

第3回では、構造化の事例を紹介します。

 

構成・文・写真:内田洋行教育総合研究所 研究員 大澤 柚子

 

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